ゲレンデを3台乗り継ぐ友人の選択
先日、私の友人が新しい車を手に入れました。
それはメルセデス・ベンツのGクラス──通称「ゲレンデ」です。しかも限定モデル。新車価格は2000万円をゆうに超える代物です。
実は彼にとってゲレンデはこれが初めてではありません。すでに今回で3台目。しかも驚くことに、これまで乗ってきたゲレンデはどれも「車検を迎える前」に買い替えているのです。
普通の感覚なら、車はできるだけ長く乗り、維持費や減価償却を気にしながら「元を取る」もの。私自身もそう考えていました。ところが彼のスタイルは真逆。車検のタイミングを待つことなく、次々と新しいモデルに乗り換えていく。その姿勢には「効率」や「節約」では語れない価値観が表れているのです。
私は正直、そんな生活は到底できません。けれど、彼が新しいゲレンデを前に目を輝かせているのを見て、ふと口から出た言葉がありました。
「健康で動ける時間なんて、あと10年くらいしかないんだから、好きな車に乗ったほうがいいよ」
それは、彼を後押しするつもりで言った言葉でしたが、同時に私自身に向けた言葉でもありました。
2000万円超のクルマに込められた価値
ゲレンデは単なる移動手段ではありません。角ばった独特のデザイン、軍用車にルーツを持つ堅牢さ、どんな悪路も走破できる性能。さらにはメルセデス・ベンツというブランドの象徴としての存在感。そこには、軽自動車や一般的なセダンとはまったく異なる「モノ以上の意味」が宿っています。
世の中には「ゲレンデに乗る人は見栄っ張り」「お金持ちの道楽だ」という声もあります。しかし、私の友人を見ていると、それは少し違うように思えます。彼は他人に見せつけるためにゲレンデを選んでいるのではありません。毎日ハンドルを握り、自分の感覚で車を味わい尽くすために、ゲレンデを選んでいるのです。
考えてみれば、2000万円を銀行に預けても利息はほとんどつきません。投資に回せば資産は増えるかもしれませんが、それはあくまで未来のため。けれど、ゲレンデを手にすることは「今、この瞬間を最大限に楽しむための投資」なのかもしれません。
健康年齢と「残された10年」問題
人生100年時代といわれる現代ですが、実際に元気に好きなことを楽しめるのはいつまででしょうか。厚生労働省のデータによれば、日本人の平均寿命は男性で約81歳、女性で約87歳。しかし「健康寿命」──介護を受けずに自立した生活を送れる期間──は男性で72歳、女性で75歳程度とされています。
つまり、寿命と健康寿命の間には約10年の差があるのです。その期間は病院通いや介護が必要になる可能性が高い。ということは、自由に好きな車を運転したり、旅行に出かけたりできるのは、実質的に健康寿命までの時間しかないわけです。
友人の年齢を考えれば、あと10年くらいが「全力で車を楽しめる最後の時期」。そう思うと、彼がゲレンデを買い替える理由がはっきりと見えてきます。車はただの移動手段ではなく、「残された時間をどう楽しむか」という人生観そのものなのです。
タントかゲレンデか──似合う生き方の選択
私は冗談交じりに彼にこう言いました。
「君にはタントは似合わないよ」
タントは軽自動車の中でも代表的な実用車。燃費がよく、小回りがきき、維持費も安い。確かに多くの人にとっては「合理的な選択」です。しかし、果たしてそれが本当にその人の人生に似合っているのか。
もちろんタントに乗ること自体が悪いわけではありません。でも、毎日を心から楽しみたい人にとっては、合理性だけで選ぶ車は「人生を縮小する」選択にもなりかねません。
他人にどう見られるかではなく、自分がどれだけ心躍るか。そこに人生を豊かにするヒントが隠れています。
クルマが象徴する生き方の哲学
結局のところ、ゲレンデを選ぶかタントを選ぶかは「生き方の象徴」です。お金を消費するか、未来のために投資するか。それとも「今、この瞬間に投資するか」。
私の友人は迷わず後者を選びました。残された10年を後悔しないように、自分が本当にワクワクするものにお金を使う。それは傍から見れば贅沢かもしれませんが、人生を最大限楽しむための合理的な判断でもあるのです。
私たちはつい「老後のために貯金を」と考えがちです。しかし、健康で自由に動ける時間は有限。いつかのために備えることも大切ですが、今を楽しむことも同じくらい大切です。
ゲレンデに乗り続ける友人の姿を見て、私は学びました。
「好きなものを選ぶことは、人生そのものを選ぶことだ」と。
終わりに
車は単なる移動手段にとどまらず、人生観を映し出す鏡のような存在です。合理性だけで考えれば、2000万円のゲレンデよりもタントのほうが賢い選択に見えるでしょう。けれど、「残された10年をどう生きるか」と考えたとき、その答えは人によって違ってきます。
私の友人はゲレンデを選びました。そして私は、その背中を押す言葉をかけました。
「あと10年しかないんだから、好きな車に乗ったほうがいい」
それは彼へのエールであると同時に、私自身への問いかけでもあります。もし自分に残された時間が10年だとしたら、私は何を選ぶのか。どんな車に乗り、どんな人生を走り抜けるのか。
ゲレンデのハンドルを握る彼を見ながら、そんなことを強く考えさせられました。

